現在、『スパロボ』シリーズのプロデューサーとして、多忙な日々を過ごしている寺田氏。そんな寺田氏に、『スパロボ』シリーズとの出会いと思い出を語っていただいた。
GB版『スーパーロボット大戦』との出会いはオモチャ屋でした。当時、バンダイからいきなり『スーパーロボット大作戦』という、マジンガーやゲッターのソフビが発売されまして、なんで今頃マジンガーと思っていたところ、すぐそばに超合金そっくりのパッケージのGBソフトがあったわけです。そのタイアップ戦略にまんまと乗せられまして、「今時こんなの、誰にも分からないよ」と思いつつ手に取ってしまったのが、今に至る出会いですね。
あまりストーリーを気にせず、SDガンダムのノリで始めたのですが、結構マニアックな話が少しずつ入ってまして、ついついプレイに熱中してしまい、結局スキーバスの中で一気に解いてしまった記憶があります。
任天堂が新作ソフトの評価の参考に、若いゲーム好きを集めて新作をプレイさせて、その感想を聞くというマリオクラブというものがありまして、『第2次』はそこでの担当作品でした。他にも何人かプレイしたのですが、評価が真っ二つにわかれたんですよ。任天堂も評価に困っていました。なにしろ最高点と最低点しかなく、中間がありませんでしたから。
私としては凄いソフトが出たなと思い、大絶賛でした。GB版の移植かと思ったら、パイロットは乗っているし、BGMも全部本物。特に一番驚いたのが、ゲッターがちゃんと変形するところですね。機種がGBからFCになったことで、エフェクトが派手になったり、登場ロボット数が増えたりと、全体的にパワーアップしていたのが印象に残っています。評価が低かった人からは、「なんでガンダムとマジンガーが一緒にいて、しかもSDなんだ?」と、突っ込まれまして、私としても若干の違和感を覚えたのですが、クリアする頃にはまったく気にならなくなっていました。それほどシナリオが良くできていたということですね。まあ、ミライさんがショップでアイテムを売っているところは、PRGを意識し過ぎというか、今から思えばちょっと……ですけど。
余談ですが、ゲームに限らず、当時のキャラクターものというのは、今テレビでやっていないものはウケないという絶対的な風潮がありまして、それも評価のわかれ目だったと思います。『第3次』もマリオクラブでプレイすることになったのですが、あらゆる意味で『第2次』から数段パワーアップしていて、これも大絶賛してしまいました。そこでクリアしているのですが、その後個人的にも購入をしました。バンプレストの入社面接があるというのが、大きな原因のひとつであることは、言うまでもありませんが……。
めでたく(?)バンプレストに入社することができまして、そこで待っていたのが『EX』のデバッグでした。ここでバンプレストに語り継がれている笑い話をひとつ紹介しましょう。
みなさんよくご存知だと思いますが、ゲーム中にダンバインのショウが「南無三!」という台詞を言いますが、一緒にデバッグをやっていました同期入社の者が、「ショウがナムゾウって叫ぶ台詞があるんだけど、そんなキャラいたっけ?」と私にコッソリ聞いてきたことがあります。こんな美味しいネタを黙っているのもナンですからというわけで、今でも「ナムゾウ事件」として、バンプレストでは語り継がれています。誰かということは、言わない方がいいですね。
続く『第4次』は、デバッグを買って出ました。担当そのものは別のゲームだったのですが、新人ですから何でもやらなければいけないわけです。でも本当のところは、別の人間のデバッグを見ていて、ダイターン3の登場に我慢できなくなってしまったというのが真相です。あのときは本当に、ダイターンを使いたくてしょうがなかったですね。
デバッグと言えば、やりながら画面写真を撮るのも大事な仕事なんです。電撃さんはじめゲーム雑誌のみなさんに、これを広報用資料としてお渡しして、紙面で紹介してもらうのですが、普通はデバッグモードと言いまして、必要な写真が撮れるようにシナリオを選べるモードが開発途中のソフトにはついています。このときはこのことを知らされていませんで、自力で最後まで撮影したところ、実はデバッグモードあるんだよと言われ、ガックリきた記憶が鮮烈に残っています。
やっと『スーパーロボット大戦』のプロデューサーとして関わるようになった『第2次G』です。長かったですね。お待たせついでに『第4次S』にも少し触れます。
この『第4次S』はスーパーファミコンで発売した『第4次』の移植作品ですから、ゲーム作りよりも、最大の特徴である声の部分、その準備に苦労しました。声優さんを集めるのはもちろんですが、いざアフレコというときに、当時の声の再現がスンナリいかない声優さんもいまして、これには困りました。追加シナリオも、阪田さんに10話分ほどお願いしてあったのですが、声を入れたら容量的に2話しか入れられないということもありました。初めてのことばかりで、試行錯誤の連続の作品だった思い出がありますね。
さて『第2次G』ですが、これまでの『スーパーロボット大戦』では、新作アニメからのロボットの登場がありませんでした。そこで、当時放映中でしたGガンダムと、Vガンダムを入れようと思い、ウィンキーソフトさんに相談にいったところ、「Gガンダム?嫌です。あれは今までのガンダムとは流れが違いますから」という、半ば予想通りのお返事をいただきました。私自身も、これまでのガンダムとは設定もノリも完全に違うということは分かっていました。そこで私はダメもとでGガンダムのビデオを観てもらうことにしたんですよ。東方不敗のエピソードまで観てもらい、それでもウィンキーソフトのみなさんがゲームに取り入れるのは難しいとおっしゃるのなら諦めようと思っていました。
ところが、徐々にGガンダム信者がウィンキーソフト内に増えてきまして、阪田さんに至っては、「Ζガンダムのロザミア削って、Gガンダムのシュバルツ入れてもいいですか?」とまで、狙い通り以上にことが運んでしまいました。作りそのものも『第2次』のリメイクですから、うまくいったと自負しています。
『魔装機神』に触れていないのは、仕事もノータッチだったからです。デバッグすら応援の要請を拒否してしまった作品なんです。シナリオが素晴らしく、垣間見た開発画面も美しかったので、これはもう純粋にファンとして楽しもうと、当時社内では一切触れませんでした。仕事で触れてしまうと、個人的な楽しみがなくなってしまいますから。
開発ライン的にも、まったく新しい『スーパーロボット大戦』のシリーズとして育てていこうという動きがありまして、まさかそのラインがいつの間にか『新スーパーロボット大戦』になっているとは、そのときには予想もできませんでしたね。
まったく新しい『スーパーロボット大戦』を作ろう、新しい展開をしようということで、『新』というタイトルになったのですが、やはりこれは『第4次』とは違う方向性を持たせなければいけない、その上で『スーパーロボット大戦』でもなければけないという決断がありまして、『新』を作ることになりました。結果的には、今まで足かせとしていたものをすべて取って『新』に臨んだのですが、それはそれで良かったと思います。『第4次』までのものに縛られすぎていたら、きっと『F』はできなかったと思っています。そうでなければ、延々と同じものを作っていたと思います。
『新』でひとつ吹っ切れたな、波に乗ったかなと思っていた矢先、セガサターンで『スーパーロボット大戦』を出してほしいとの要請がありました。『新』をやって、もう『第5次』はないだろうというときでしたから、やるなら『第4次プラス』という形の移植にして、新ロボットがいないのもさびしいから、エヴァンゲリオン、イデオン、ガンバスターを登場させましょうと阪田監督に相談したところ、それではシナリオ的におかしくなるのでやり直しましょうという、恐ろしい事態になったわけです。
声にしても、全員喋らせようということになりまして、250キャラぐらいいるのですが、プログラムの庄さんからは全部は無理ですよ、と言われてしまいますし、シナリオ的にも今までの『スーパーロボット大戦』の、文字通りファイナルにしましょうということで、膨大な量になってしまいました。その結果、ご存知の通り『F』『F完結編』にわかれてしまったのですが……。『新』で色々と試行錯誤した分は、『F』には生きていると思っています。『新』でやれなかったことを、注ぎ込んでみようと思って作っていましたし……。
細かいところでは、悔いが残る部分もあります。例えばエヴァンゲリオンの使徒などは、もう少しウエイトを置いてもよかったと思っています。たまに襲ってくる、壁を持った敵キャラ以上の印象は薄いですからね。完結編でもそうですから、せめてもう2、3体出しておけば本筋にからんできたかなあと、後悔しています。
今でもそうなんですが、私はマイナーゲームを作っているという感覚が強いんです。ランクインなんかしてしまいますと、それだけで舞い上がって飲みに行ってしまうぐらいなんです。セガさんから『F』のお話をいただいた時点でも、当然そんな感覚だったのですが、いつの間にか、そんな私ですら感じるほどみなさんに大きく育てていただきました。
その『スパロボ』シリーズの中でも、全体を通して思い入れがあるタイトルは、自分自身のターニングポイントとなった『第2次G』と『新』です。もちろん『魔装機神』は個人的に大好きですが……。みなさんも、それぞれに楽しんでいただければ幸いです。