ウィンキーソフトの社長であり、『スパロボ』シリーズの生み親でもある高宮氏が、シリーズ誕生時から現在に至るまでの、『スパロボ』開発秘話を熱く語る。
GB版は私がプログラムしたんですよ。それもありまして、よくここまで続いてきたなと思いますね。『第2次』以降は、伸びた枝は違いますが根っこは一緒なので、GB版への思い入れとともに、8年続いてきた感慨はあります。
元々はバンプレストさんから、「キャラクター混載のシミュレーションRPGを作ってほしい」と要請があったんです。当時、シミュレーションゲームはかなりマニアックなジャンルでしたから、そこそこ売れてくれればいいだろうと、軽い気持ちでおりましたところ、結局190,000本も売れたと後日お聞きして、驚きましたね。
私は当初、『大戦略』タイプのゲームに、スーパーロボットが登場するというゲームを作ろうと思っていたのですが、手伝いに入ってもらった阪田から、「説得」というアイデアが出まして、ゲーム性が一変しましたね。確かに、敵を説得して仲間にできるのは大変面白いし、戦略的にも幅が出るので、「説得」を採用したんです。ただ、誰でも「説得」できるというわけにはいかなかったんです。これはGBの問題として、サイズの大きなキャラは処理できないものですから、ゲームのシステム上大きいか小さいかで「説得」の制限ができてしまったわけです。
おかげさまで『GB版』が好評をいただけましたので、『第2次』を作る話はスンナリとまとまりました。この『第2次』というタイトルにも、阪田のこだわりがありまして、戦争なんだから『スパロボ2』とか『続スパロボ』じゃ変だろうということで『第2次』というタイトルになったんですよ。セリフの方も、こんなもの原作のどこから引っ張ってきたんだと、驚かされていたものがほとんどでしたから、企画から任せてしまうことにしてしまったんです。開発にはノータッチだったのですが、デバッグでプレイしてみて、『GB版』とはかなり変わったが、これはこれで非常に面白いと思いまして、自信満々でバンプレストさんに持って行ったんですよ。
そこでいきなり逆風にさらされまして、当時、世はまさにファミコンからスーパーファミコンへの移行期、ゲーム雑誌の紹介記事も完全にスーパーファミコンに移っていたんです。しかも、年末商戦にも間に合わない本当の年末ギリギリの発売で、『GB版』の約半分である100,000本前後しか売れなかったんです。さすがに前作の半分ですから、バンプレストさんからは「シリーズは諦めて新作の開発を」、と言われたのですが、「スーパーファミコンでもう一作やって、それでダメなら諦めましょう」と、『第3次』に希望を託しました。
シリーズを通してですが、思い入れとは別に私はこの『第3次』が一番好きなんですよ。シナリオのボリュームとゲームバランスが絶妙だと思いますし、グラフィックもファミコンでは表現できなかった美しいものになった。今度こそ売れるぞと、かなり期待しましたね。
ところがふたを開けてみますと、初回出荷本数は100,000本をほんの少し上回っただけと聞きまして、バンプレストさんからも、「これで新しい作品の開発をしてくれますね」と念を押されてしまいました。私の方も、『第2次』『第3次』と続けてダメでしたから、こりゃアカンと思っていたところ、不思議な現象が起きました。『第3次』の発売後から、電撃さんをはじめ、あちこちのゲーム雑誌で盛んに記事を載せていただきまして、しかも、発売前の記事より数倍熱い内容なんです。これで人気が出てくれたのですが、どうせなら発売前に熱い記事を書いてくれればいいのにと、当時思ったものでした。
私も諦めの悪い方ですから、バンプレストさんがダメなら他のメーカーに『第3次』以降の企画を持ち込もうと画策しておりまして、事実あるメーカーさんから「一週間ほど考えさせてほしい」との返事をいただいたところだったんです。その2、3日後にバンプレストさんから「次、いきましょう」と言っていただいたのですが、私は今でも、その時期のゲーム雑誌の特集を読んで、バンプレストさんが再考してくださったと思っています。そういう意味では、ゲーム雑誌の編集の方々に『スパロボ』は救っていただいたんですよ。
ゲーム雑誌の援護射撃で人気の出た『第3次』ですが、初回の出荷本数が少なかったために、評判のわりには市場にはありませんし、追加受注をとってもすぐにはけてしまい、店頭でついぞ見かけないソフトとなってしまいました。その結果、これは痛し痒しなのですが、現実にあったことなのでお話ししますと、中古市場での価格が新品よりも上回ってしまったということがありましたね。『第2次』は質的には相当の手応えがありましたが本数が出ず、それを超えたと思った『第3次』は終わったかと思った途端、息を吹き返した。やっと、今後に発展する地盤ができたわけです。
このシリーズは長くなると実感した、その後に出したのが『EX』ですが、さすがにパブリシティもゲーム雑誌の記事も、当初から熱いものを展開していただきました。こちらとしましても、新境地を切り拓こうと思い、あのシステムにしたのですが、発売後には、もう一本『第3次』の延長作があって、『EX』はその次でも良かったかなと思ったことがあります。三本並列のストーリーで進んでいき、各章での行動が他の章のイベントに影響するISSシステムは面白かったと思うのですが、シリーズを通してプレイしていただいた方々には、その一本の章が短くて、物足りなかったかなと心配してしまいました。結果的には300,000本以上のご支持をいただき、大成功を収めさせていただきましたが。
『EX』が成功しましたので、『第4次』はそれほど不安なく進められました。開発チームも、いい意味で手慣れてきましたし。その直後に『第2次G』に着手するのですが、これは『第4次』のあとに開発を始めましたので、GBとしては、非常にクオリティの高いソフトになったと思っております。
GBというハードは不思議なハードで、ある程度の周期でブームが来ているんですよ。『第2次G』のときも、何回目かのブームがありましたね。『スパロボ』の新作の開発を始めるときに、今回は大体こんな感じであがってくるんじゃないかな、と思うようになったのも、この頃でしょう。その感覚でその時期に『第4次S』の移植を始めたのですが、ただの移植では面白くありませんので、追加シナリオを入れ、声が出るようにし、表面上では見えない修正をあちこちに加えました。できたものは、それだけでこんなに違うものになるのかと、新鮮な驚きを覚えました。それと同時に、このスタイルでいけるという確信も得ましたね。
ただ、多少疲れた部分も出てきたことは事実です。シナリオを書いている阪田が、本来なら『第3次』で終わるストーリーを『EX』『第4次』までつなげざるを得なく、同時にそのストーリーから派生した『魔装機神』というオリジナル世界を構築しなければならないという、かなりキツい状態に陥ってしまったわけです。
阪田としては、『スパロボ』のストーリーは『第4次』で終わりなんだと、だからプレイステーションでは『第5次』ではなく『第4次S』なんだ、という気持ちがあったことは確かです。ものを作る上で、これはしょうがないことだと思います。自分の作りたいもの、書きたいものより、無理やり書かされるものは、どうしてもテンションが下がります。そこまで彼を、追い込みたくありませんでしたからね。
私の思いとしては複雑でした。せっかく商業ベースに乗ってきたところだし、バンプレストさんからも新作の要請をいただきます。しかし、無理やり絞っても、いい作品ができるわけがない。そこで、いっそのこと書き手を変えて、新シリーズにしてしまおうということで『新』が誕生しました。
やる以上は真の意味で『新』にしたかったものですから、今までの約束事を無視するところから始めました。今までは、原作の設定は可能な限り生かして、それぞれの世界観を融合させて別の世界を作ろうというものでしたが、これを壊しました。
そして、原作の持っている使いやすい部分を、ストーリー上使いやすいようにアレンジした『新』になりましたが、こうしてしまうことによって、発売前から色々なところからクレームを頂戴することは分かっていました。私の思いとしては、クレームを覚悟してでも、ある程度色々な部分で新陳代謝をおこないませんと、ユーザーの方々を含めてみんな煮詰まってしまう、それだけは避けたかったということです。クレームは、業界内の方々ではなく、『スパロボ』を支持していただいていたユーザーの方々の方が多いだろうとは思っていましたが、私の予想をはるかに超えて多かったですね。目的は、達せられたと自負しておりますが……。
寺田さんもおっしゃっていたと思いますが、『F』は当初、『第4次S』をセガサターンに移植して『第4次プラス』という形で発売するはずだったんです。単なる移植ですから、そう手間もかからずに行けるだろうと思い、私は別の作品をやっておったのですが、気がついたら新作を作るより辛い作業となってしまいました。その辛かった分、いいものができたという意識はあります。どうか楽しんで下さい。